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第二章 my territory

​海の

透明で遠浅なインリーフ(内海)に囲まれたミクロネシアの島々では、目の前に天然の生けすがあるようなもの。
島の人たちは朝夕、家族の食いぶちをとりに海に出て、その日とれた新鮮な魚介類を家族や親類、友人と分かち合う。
漁をするのは男たちだけでなく老若男女。網をかついでビーチを歩く少年の姿や、手造りのカヌーで釣りをする親子、引き潮の海岸で貝やタコを捕る女性たち、そんな姿はどの島でも見かける。
インリーフが庭のような島の人たちにとって、海は生まれたときから遊び場であり、日々の食料調達の場だ。

■一家総出の漁労
 島々で行われている漁法は、手釣り、投網、刺網、仕掛け、追い込み漁、素潜りのスピア漁など。チューク諸島では女性が集団ですくい網を使って追い込み漁を、ヤップ島では海に「石干見(いしひみ)」を作って魚を捕獲し、干潮時に浜からゴカイやシャコを引っ張り出す漁や、カヌーでのトビウオ漁、木の実の毒を使った漁などなど、島ごとにその環境に適した漁法があって地域性豊かだ。


 サンゴ礁に囲まれた穏やかなインリーフ(内海)の漁では、子供たちの姿も見かける。それも捕れた魚はその日の食卓に上がるのだから、遊びでなく生活のため。海で育つ彼らは10歳くらいになれば立派な漁師の一員になるのだからすごい。
 

 インリーフで捕れるのは、シマハギ、カワハギ、小型のハタ、エビス、ヒメジ、フエダイ、ブダイといった赤や黄、縞模様のカラフルな小魚たち。それにタコやナマコ、カニ、貝類もかかせない。
 

 ナマコは古代から盛んに交易に使われた品だが、漬けにするなどして自家消費もしている。 
​ 海と河口が交わる汽水域の内湾に、植物マングローブの群生域をもつ島々では、その泥地に生息する蟹、マングローブクラブ漁も盛んだ。しかしこちらはもっぱらレストランに売ったりグアムやサイパンに輸出して外貨を稼ぐため。1匹50ドルほどで売られていることもあるから、特別な機会以外に自宅のテーブルに上がることはまずない。捕獲され縛られたマングローブクラブは、その状態で一週間近く生きるというから輸出には最適な商品なのだ。

■海で変身する男たち
 普段は家でゴロゴロしているような男たちも、漁に出ると一変する。いつもは動くさえ億劫そうな人が、海中では魚を追って機敏に泳ぎ、目付きまで鋭くなる。調子よく魚が突けると、時間も忘れて軽く半日は漁をしている。

 自給自足に頼る家庭では、一家の大黒柱の男は素潜り漁や外洋でのトローリングが主な仕事だ。だから気合いも違う。それに海に出ると漁民の血が騒ぐのか、彼らは海中ではほんとうに海洋民族たる力を発揮する。
 もともと漁で糧を得ていた民なのだから当然といえば当然だが、普段の姿を知っていると、それはもう驚くばかり。

 

 そして、そういう男たちの変貌ぶりは地方の村ばかりでなく、都市化したグアムたサイパンなどの島でも同じ。  
 週末になると大きなクーラーボックスを抱えた親族が集まり、ローカルの男たちが盛んに素潜り漁をしている。彼らがスピア片手に素潜りで狙うのは、コショウダイやハタ。これらは素揚げにすると美味で5~6匹も捕れればその日の漁は大成功となる。
 表側のビーチではマリンスポーツを興じる大勢の観光客がいても、裏手にまわると、そこにはミクロネシアン本来の自給自足の生活が今でも垣間見れるのだ。
 

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